さて、今回は呪いの事についてお話ししましょう。

ヴードゥー教って聞いたことがある人も多いと思います。
そうです。「人を呪いによって殺してしまう」と言う、あの恐ろしい信仰です。ヴードゥー教と言っても厳密には民間信仰の一つに分類されます。

また、ヴードゥー教は知らなくとも「ゾンビ」は知っていますよね。
死者が蘇って人を襲う、あのゾンビです。このゾンビ伝説を生んだのも実はヴードゥー教です。

この二つが特に強烈な印象の為に「悪魔信仰」や「黒魔術的」なイメージができてしまったと思います。

それは恐いですよね。誰でも呪い殺されたくないし、ゾンビにもされたくない(笑)。こんな事が本当にできるのでしょうか?

この二つの出来事、実は「呪い」などのオカルト的な解釈だけではなく、ある程度は科学的/生理学的解釈で解明されています。これらは既にハーバード大学の著名な生理学者ウォルター・B・キャノンが研究し、その後にジョンズ、ホプキンズ大学の心理生物学者のカート・リクターも調査しています。

この説明をする前に、邪教のイメージだけが強調されると黒魔術以外のヴードゥー教の方達に失礼なので、少し説明しておきます。

ヴードゥー教は主にハイチ共和国、アメリカ南部、西アフリカのベナンなどで信仰されている民間信仰です。
ヴードゥー教やそれから派生したであろうものを含めると信者は世界中にいます。
その数なんと五千万人とも言われ、チベット仏教の信者の数三千万人より多いと言われています。
本来アフリカが中心であり、教義や経典もなく、そのため布教活動も行わない民間信仰が遠方まで伝えられているのは、アメリカによる奴隷貿易が関係しています。
それは昔、西アフリカの人々が奴隷としてカリブ海地域へ強制連行され、もともとあった精霊信仰などにキリスト教が加わり発展したと言われています。
しかし、本当のところ呪術を行う信仰の特徴でもありますが、色々な宗教や信仰や神々が融合していて複雑な信仰になっています。神々の数については、未だに正確には把握されていないほど多いようです。同じヴードゥー信仰でも、ある村ではよく知られている神が少し離れた村では全然知られていないことも多いようです。

すごく大雑把な言い方をすれば、最高の神がいて人には関与しない、人に関与する神々(精霊)はロアと言われ、大きく分けるとラーダ、ペトロ、ゲーデと三つの神族もしくは二つの神族に分かれます。ラーダ、ペトロ、ゲーデはそれぞれの特徴があり、例えば慈悲深いラーダ神族は俗に「良い神」のイメージで豊穣、商売繁盛、恋愛などのご利益があります。それとは反対にペトロ神族は「悪い神」のイメージです。扱い方を間違えれば恐ろしい祟りをもたらします。呪いや復讐といったことを叶える神々たちはこのペトロの神々です。

宗教儀礼としては精霊たちに対して感謝と畏敬の念をこめ動物の生贄をささげ、踊り(踊り狂うような)、歌い、太鼓などを叩くことにより精霊たちを降臨させます。(精霊と書きましたが精霊とか神、荒神とかの概念は奥が深く、ここではアニミズムにおいての精霊という概念なので、神という概念と同一としておいてください。)そして願いを叶えてもらう。
ですからヴードゥー教といっても黒魔術を行うものだけではなく、白魔術も行うといったことが同時に存在しています。

さて、呪いの話とゾンビの話の解説をしていきます。

映画などで登場するゾンビですが、はたして死者が蘇るなんてことが本当にあるのでしょうか?
この実情は少し調べると色々な報告があります。
 
一つ例をあげるならば、1997年にThe Lancetというイギリスの医学ジャーナルの報告によれば、ハイチのある村で一人の女性が死亡しました。彼女は当然死亡を確認されたので埋葬されましたが、それから3年たって家族の皆が彼女の死を受け入れた頃、なんと彼女は生きて皆の前に姿を現したとのことです。あまりの受け入れられない事実に、家族は彼女の墓を掘り起こしました。そこには彼女の死体は無く、ただ多くの石が詰められていたというのです。その後、彼女は家族を始め知人達に、死んだはずの彼女自身だと認められています。このような報告は他にもまだまだ見受けられます。
 
死者が生き返る?そんなバカな?常識的に考えれば誰でもそのように思いますよね?

これは死者が生き返ると言うより、人を呪い殺してその後にゾンビにしてしまうという、いわゆる「人をゾンビ化させる」といった、ただ殺すよりも惨い呪いをかけるといった恐いものです。

人をゾンビにするには、必ず必要なものがあります。それが「ゾンビパウダー」です。このゾンビパウダーは司祭から司祭へ受け継がれ、代々受け継がれます。

なんだか怪しいですよね?もう何となく気づかれた方もいると思いますが、はやい話「死んだ」と勘違いさせ、実は仮死状態を起こさせ生き埋めにしてしまっていたんです。その後、密かに掘り起こしてゾンビとして覚醒させる。

ゾンビパウダーの材料は神聖な石、アルコール、骨をすり潰した粉、トカゲ、ヒキガエル、ねむの木、ボア・グラテ、バヤボンド、アヴェ、レモン、肌がかぶれる植物、幻覚作用のある植物そしてフグ。そして・・・・
ありました、テトロドトキシン。有名すぎるので聞いたことはあると思います。アルカロイド系の毒、フグの毒で有名ですよね。

(余談です。これはフグ自体が体内で合成している毒素ではなく、食中毒で有名なビブリオ菌の仲間である海中の菌類が、動物プランクトンに捕食され更にそのプランクトンが小魚・海老・貝・かになどの海洋生物に捕食される、さらにその生物達がフグに捕食されてフグの体内に取り込まれ、どんどん濃縮されていき毒となるといったものです。)

テトロドトキシンを死量には至らないがかなり多く摂取した時、呼吸は限りなくかすかで、心拍数はゼロに近くなり、一時的に死んだような状態になるようです。生き埋めにされ1~2日間という長い間ほとんど呼吸をしないので、脳の前頭葉はやられて自分では物事を考えられない、決定できない、要するに自発的な意思がない人間になってしまいます。その後、洗脳と言うか催眠誘導によってゾンビができるという仕組みのようです。本当にむごいお話です。

また、ヴードゥー教の呪いによって殺されてしまった人もかなりの数にのぼります。また呪われればほとんど助からないことから呪いのイメージがより一層強まっています。

ヴードゥーの呪いによる死は、ほとんどの場合心臓が原因です。

激しい怒りが生じると不整脈が出たり、心臓発作のリスクが通常の8倍以上高まることは、現在では様々な研究報告があり、多くの人が知っています。

ヴードゥーの呪いを信じている人にとって「ヴードゥーの誰かが自分を呪い殺そうとしている」ということだけでどれほどの不安や恐怖、怒りが起こるのでしょうか?それらが心や身体にとってどれほどの強いストレスになるのでしょうか?
このような激しい感情が起きて過度のストレスがかかった場合、脳からの指令で交感神経系が過剰に反応して交感神経や副腎からアドレナリン、コルチゾールなどのホルモンの分泌が活発になります。その結果、心拍数の増加、不整脈、血圧上昇、著しい糖代謝など、これらが引き金となって心臓の細胞が破壊され、死に至るという仕組みです。(以前スプーン曲げでも似たような事を書いたので理解しやすいと思います)

要するに、簡単に言ってしまえばヴードゥーの呪いによる死のほとんどは、ヴードゥーの誰かが自分を呪い殺そうとしているといった強い不安や恐れなどの感情が過剰なストレッサーとなり、その結果心臓発作が起こり死に至るといったことです。ただし、このことだけでは説明できない報告例も少なからず存在します。

ですから、現在世間ではコロナウィルスのことで、不安や恐怖をお持ちの方も多いと思いますが、必要以上に敏感にならないほうが健康には良いと思います。もちろん予防は大切ですが。